Column

祈り

先日、とあるつくり手のベテランと若手の師弟対談の取材に同席した。ベテランはもう60歳間際で、若手はまだ20代後半。世の中の嗜好が急速に変わる中、ものづくりにおいて変えていくべきこと、変えてはいけないことなどを聞く企画だっ...

得意

「おふたりの家事分担を教えてください」この質問にしばらく黙り込んでしまった。 とある雑誌の取材だった。その雑誌では、リモートワークが当たり前になり家にいることが増えた今、家事の効率化や家族の協力関係などを特集しているとの...

感動

いつものジムで軽く汗を流し、一息つこうとロビーで寛いでいたら、隣接しているスタジオから小気味いいビート音が流れ始めた。おそらくBTSだと思う(最近音楽に疎い)。その音楽に合わせて女性インストラクターの快活な声が響く。 「...

固執

半年前くらいにInstagramをぼんやりと眺めていた時に再会してしまったのが事の始まりだった。今から25年前、中学生の頃、あまりにもプレミアムがつき過ぎて手の届かなかったエアマックス。そのエアマックスの中でも、散々リバ...

おまけ

近所にある鮮魚店に週に1度くらいの頻度で通っている。魚がただただ美味しいというのもあるけれど(切り身はスーパーの2倍くらいの厚みがあってジューシーだし、自家製の塩辛はちょうどいい塩梅で絶品)、それ以上にご機嫌な店主のおじ...

距離感

本来であれば、大学時代のサークルの友人の結婚式に参加するため、北海道に行っているはずだった。 式の日取りが決まった半年前から、結婚式に招待されたサークルの仲間同士でLINEグループを作っては、前日入りするかどうか、何をし...

外のテーブル

半年前にオープンしたばかりの、マンションの1室を改装したそのバルは、キッチンに面して大きな長方形のテーブルがひとつあるだけのシンプルな佇まい。大きなテーブルの3つの辺に1組ずつ着席するスタイルで、キッチンにいる店主と相対...

アドバイスと隙間

先月からジムに通い始めた。 外出が減ったことで持て余した体力はお腹周りに集中したようで、「余分な肉」がいよいよのっぴきならない状況まで追い込まれてきて、ついにはストレッチジーンズすら入らなくなってしまった。 身体が重くな...

感性

この年齢になってはじめて絵を買った。 きっかけはとある雑貨屋で行われていた個展。器作家さんの個展だったのだけど、器以上に壁に飾られていた絵になにか引き込まれるものを感じて、店員さんに絵の作者を教えてもらった。 後日その方...

人柄

子どもの頃から感情が顔に出るタイプと言われてきた。 「もう話飽きてるでしょう?」「あ。またふてくされた」 こんなことを幼少期から大学生くらいまで言われ続けてきたように思う。 30代も後半に差し掛かり、それなりに訓練をして...

陽当たりのいい家に引っ越したからか途端に緑が欲しくなった。近所の観葉植物屋さんに行き、比較的大きめのシェフレラを買うことにした。 買ってはみたものの育て方が皆目わからないので(あまり植物を育てた経験もないしこれまで何度も...

伝手

数ヶ月間のリノベーション期間を要して先月末に新居に引越しをした。リノベーションをリードしていただいた設計事務所の方々が素晴らしく、引っ越して10日経ってもなお、毎朝コーヒーを飲みながら「良い家だ」とつぶやいている(カーテ...

プレゼント

日が暮れ始める約束の時間の10分前、指定されたお店に入ればその方は既に奥のテーブル席でひとりビールを楽しんでいた。まさか先にいらっしゃると思っておらず、少し慌てる。 この日は僕が所属している会社の大ベテランの方との食事会...

布石

「振り返れば、あれがターニングポイントだったのかもしれない」 今やっている仕事の多くは、何かしらの事業や商品に中心的に関わった人の話を聞き、記事にして世の中に配信することだ。 話を聞く時は大抵その人の半生を遡ることになる...

負荷をかける

ズーンと沈み込むような重さだった。 お盆を過ぎた頃、所用のため夕刻早めに在宅勤務を切り上げて、電車で数駅先まででかけた帰り道。21時をまわった世田谷線の駅の誰もいないベンチに腰掛けたとき、ベンチがまるでクッションのように...

知るを道楽する

「はい。教えてください」 画面越しでその人は笑顔で挙手をした。オンライン飲み会の最中、僕が話した内容に対して(なんの話をしていたかは忘れてしまった)、そこんとこもっと詳しく教えてくださいよといわんばかりに、その人(僕より...

かっこいい人

なんだかんだ「かっこいい人」に憧れ続けた人生だった。 幼稚園の頃は地球を守るヒーローに、中学生の頃はどんな女性も落とせそうな男前の俳優に、高校生の頃は世界で活躍するスポーツ選手や日本一売れている歌手に、大学生の頃は僕より...

猫について

僕は猫を飼っている。 猫の名前は「にぼし」といい、家に来たのは今年の2月末。なぜ猫を飼うことにしたのか、なぜ名前が「にぼし」なのか、そのあたりの記憶はとんと抜けている。なかば衝動的に「飼わなきゃ」と気持ちが高まり、それか...

想像力さん

これだけ人と会わない日が続くのは生まれてはじめてのことかもしれない。ここ1か月はほとんど妻とにぼし(飼い猫)としか対面していない。 それでも日々情報は大量に流れ込んでくる。様々な立場から様々な人が発する感情を伴った声は、...

今は小さな約束を蓄えて

「ミートソーススパゲティを作ろう」と思い立ったのは外出自粛要請が出た週末の昼下がりだった。 朝起きて朝食を食べて、さて今日は家の中で何をやろうとぼんやりした頭で過ごしていたら(その間にSNSのタイムラインを追ったりエッセ...

わかったつもり

「正月太り」以降、一向に体重が減る兆しを見せない。これはしっかり運動をせねばと思い立ち、まずは形から入るべくGARMINの腕時計を買った。 走った距離や歩数、心拍がわかるのはもちろん、睡眠時間やストレス、ボディバッテリー...

声をかける

朝スケジュール表を開いて、打ち合わせなどが少なく「今日は落ち着いてるな」と思える日は、決まって会社から徒歩5分程度のところにある小さな中華屋に行くことにしている。 満席になっても15名くらいしか入らないその中華屋は、まだ...

兆し

2020年がスタートした。令和になってからはじめての年越しであり、干支でいえばはじまりの「子」であり、オリンピックが東京に帰ってくる年でもある。なんとも縁起のよさそうな1年だ。タイトルの通り、既にいい兆しが見えているよう...

タクシーの窓越しで

仕事で関わった方から声をかけられ、ほとんど初対面の方たち数名と代官山のクラフトビール屋さんでお酒を飲み交わした。 宴は盛り上がりそのまま二次会に行くことに。少し離れたバーに行こうとタクシーをつかまえ4人で乗り込む。5人乗...

正しい時間

ここ1年、定期的にとあるベテランの料理家さんと仕事をしている。毎回お会いするたびに新しい発見があり、仕事が終わる頃にはノートはメモで真っ黒になっている。 「灰汁(あく)って、言葉の音からして悪いものだと思ってない?灰汁も...

通じない

遅めの夏休みをもらい、9月終わりから1週間ほどクロアチアのザグレブとドイツのミュンヘン、フランクフルトを旅行してきた。 「滝を見たい」のパートナーの一言で、クロアチアの自然公園ツアーに申し込んだのは旅立つ2日前。既に日本...

言葉ひとつ

  仕事柄取材と称して人の話を聞くことが多い。 ひとつのことに人生を賭けている人、とある分野の専門家…そんないわゆる「プロ」の話を聞いていると「この人は言葉を持っているなぁ」と感嘆することがよくある。 言葉を持...

3mmくらいの、いいこと

今年の梅雨は長かった。晴れ間が顔を出さない日々は体調にも陰を落とすのか、あちこちから不調の声が上がっていたように思う。僕も僕でなんとなくフワフワしていた。 7月末にようやく梅雨が明けたと思ったら、連日35度を超える猛暑が...

嬉しい寂しい

子どもの頃から集団行動に馴染めなかった。はっきり言って苦手だった。 少年野球を小学1年生から6年間続けていたのだけど、大会でチームが敗戦したときに、メンバーが悔し泣きをしているそばで、猛打賞だった僕はどうしても「泣きの輪...

美容室にて

毎月10日に公開しているこちらのコラム。 ちょうどよく月にひとつ書くことが見つかればいいのだけれど、そんなことは全くなくて、毎月1日になると10日後に迫った公開に向けて「うーん」と唸りながら、テーマをひねり出している。 ...

おいしい暮らし

「あぁ。おいしい」 今年のGWは尾道を旅行していた。 今月のコラムは尾道の旅行について書こうと思い、パソコンを起ち上げ、書き始めようとしたところ、振り返って浮かんだ言葉が冒頭のそれだった。 それから旅行中何度言ったかわか...

リセット

4月1日。午前11時から始まった会社の会議の途中、突然隣の女性が「あっ」と小さく声を上げた。 「どうしました?」と声をかければ「元号発表、そろそろじゃない?」と焦った様子だ。そういえば、と会議室に集まった10人弱のメンバ...